公務員として働いていると、避けて通れないのが「契約事務」です。
たとえば物品を買う、業務を委託する、工事を発注するなど、行政のさまざまな活動には必ず「契約」という形が関わります。
ただし、公務員の契約は、民間企業のように「口約束」や「スピード重視」で済ませることはできません。
法律・規則に基づいた厳格な手続きが必要で、適正な競争と透明性、公平性が求められます。
この記事では、これから契約事務を担当する方や、流れを整理したい方向けに、
「公務員の契約事務の基本・流れ・注意点」をわかりやすく解説していきます。

1. 公務員の契約事務とは?
「契約事務」とは、行政機関が物品の購入や工事、業務の委託などを行う際に、
相手方(業者など)と正式に契約を結ぶための一連の事務手続きを指します。
つまり、「必要なものをどう調達し、誰と契約するか」を決め、
その契約が法律的にも適正であるよう管理するのが契約事務の役割です。

契約事務の目的
- 公正な取引の確保
特定の業者をひいきせず、すべての取引を公平に行うこと。 - 透明性の確保
誰が見ても手続きが正しく行われたとわかるようにすること。 - 税金の適正な使用
行政が使うお金(=税金)を無駄なく使うための仕組みでもあります。
2. 契約事務の基本ルール(地方自治体の場合)
地方自治体などでの契約事務は、主に以下の法律・規則に基づいて行われます。
- 地方自治法第234条
契約に関する基本ルールが定められています。 - 地方自治法施行令第167条~
契約方法や手続きの詳細が書かれています。 - 各自治体の契約規則
実務に即した細かい運用ルールを定めています。
つまり、「法律 → 施行令 → 契約規則」という3段階の仕組みで運用されています。
3. 契約の主な種類
契約事務では、発注内容や金額に応じていくつかの方法を使い分けます。
契約方法 | 内容 | 主な特徴 |
---|---|---|
一般競争入札 | 多くの業者に自由に参加させる方法 | 公平性が高いが手続きが複雑 |
指名競争入札 | あらかじめ指名した業者の中で競争 | 実績のある業者に限定できる |
随意契約 | 特定の業者と直接契約 | 金額が小さい場合や特別な理由があるとき |
公募型プロポーザル | 技術提案を比較して選定 | 委託業務などに多い |
例:
たとえば、市役所で「清掃業務を外部に委託したい」とき。
金額が大きければ入札を行い、複数の業者から見積りを取って最も有利な業者を選びます。
一方、数万円程度の印刷や備品購入なら、随意契約で特定の業者と契約することも可能です。
4. 契約事務の流れ(全体像)
契約事務の流れは、以下のステップで進みます。
- 需要の発生・計画
- 見積・積算
- 予算の確認・決裁
- 入札または見積徴収
- 契約の締結
- 履行の確認(納品・検収)
- 支払い処理
順番に見ていきましょう。

5. 各ステップの詳しい流れ
(1) 需要の発生・計画
まず、「何が必要なのか」を明確にします。
例えば、庁舎の電球が古くなった場合、「LED照明に交換したい」というニーズが生まれます。
このとき、数量・仕様・納期などを整理して「調達計画」を作ります。
(2) 見積・積算
次に、いくらぐらいかかるかを把握するために、過去の契約実績や市場価格をもとに「積算」します。
積算とは、予算の根拠となる「見積りの見通し」を作る作業です。
例:
LED照明100本 × 単価8,000円 = 80万円(概算)
この段階では、まだ業者には発注していません。
あくまで内部的に「いくらかかるか」を確認するだけです。
(3) 予算の確認・決裁
積算した金額が決まったら、その金額を支出できる「予算」があるかを確認します。
予算が確保されていれば、契約に進むための**起案書(伺い書)**を作成し、決裁を受けます。
決裁の段階では、「契約の相手」「金額」「契約方法」などを上司や決裁権者がチェックします。
ここを飛ばすと、**違法契約(予算外契約)**になるおそれがあるため、非常に重要です。
(4) 入札または見積徴収
契約方法に応じて、次のような手続きに進みます。
- 一般競争入札 → 公告して広く業者を募集
- 指名競争入札 → 指名業者に入札通知を送付
- 随意契約 → 見積書を徴収して比較
入札では、最低価格だけでなく「品質」「実績」なども判断材料になります。
最近は、電子入札システムを使う自治体も多く、手続きがペーパーレス化されています。
(5) 契約の締結
落札者(または選定業者)が決まったら、契約書を作成します。
契約書には、以下のような内容を明記します。
- 契約金額
- 契約期間
- 納期・納入場所
- 支払条件
- 瑕疵(かし)担保責任 など
印鑑(公印)の押印や、相手方との署名をもって契約が成立します。
電子契約を導入している自治体では、電子署名で済む場合もあります。
(6) 履行の確認(納品・検収)
契約した物品やサービスが、契約どおりに納品されたかを確認します。
これを「検収」と呼びます。
例:
清掃業務なら、実際に庁舎が清掃されているか。
印刷物なら、部数・品質が発注書どおりか。
検収が済んで初めて「支払いに進んでよい」という判断ができます。
(7) 支払い処理
検収が終わったら、業者からの請求書をもとに支払い処理を行います。
支出命令・会計処理を経て、業者に入金されます。
この段階でも、金額や口座情報のチェックを怠るとミス支払いや不正につながるため、注意が必要です。
6. よくあるトラブルと注意点
① 契約書の日付ミス
実際には納品後に契約書を作成してしまうケースがあります。
これは**「後契約」**と呼ばれ、違法・不適正契約とみなされることがあります。
→ 契約書は「履行前」に締結するのが原則です。
② 業者選定の不透明さ
見積徴収をしたのに、実際には特定の業者だけに依頼していた、というケース。
→ 透明性を保つため、記録(見積書・比較表など)を必ず残しましょう。
③ 契約金額の変更
契約後に内容を変更したい場合は、「変更契約書」を作成します。
口頭での変更はNGです。

7. わかりやすい例:備品購入の契約事務
たとえば「新しいパソコンを10台購入する」場合の流れはこんな感じです。
- 総務課が「パソコンが古くなったので更新したい」と計画
- 市場価格を調査して、概算100万円と積算
- 予算を確認し、契約伺いを起案
- 3社に見積徴収 → 一番安い業者を選定
- 契約書を作成・締結
- 納品・検収(台数や動作を確認)
- 支払い処理(請求書チェック・振込)
このように、1つの契約にも多くの段階と確認作業があります。
「手間がかかる」と感じるかもしれませんが、これが行政の信頼を守るための大切な仕組みなのです。
8. まとめ:契約事務は「信頼」を守る仕事
公務員の契約事務は、単なる「物を買う手続き」ではありません。
その裏には、税金を正しく使う責任と、住民の信頼を守る使命があります。
一つひとつの契約が透明で適正であることが、行政全体の信用につながります。
手続きが細かく感じるかもしれませんが、それは「不正や誤解を防ぐための大切な仕組み」です。
もしこれから契約事務を担当することになったら、
まずは「流れを正確に理解すること」と「記録を丁寧に残すこと」から始めてみてください。
それだけで、トラブルの9割は防げます。
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